株式会社テイクアステップ 代表取締役社長 兼 一般社団法人BizOps協会 代表理事の祖川慎治です。
この記事の要点(3行サマリ)
- 問題定義・課題抽出・原因分析・解決策の列挙までは、まだ「材料」です。ビジネスで言う答えとは、責任者として「この解決策を選ぶ。実行しきる」と宣言できる一つのことです。
- 答えを出せる人が社内で育たないのは、能力の問題ではありません。内製で宣言して失敗すると個人の責任になり、外部に任せれば責任が分散する。「答えを出すと損をする構造」が放置されているからです。
- 分析も選択肢の列挙もAIが瞬時にこなす時代になりました。AIは「可能性があります」までしか言いません。人間に残る仕事は、一つを選んで宣言し、背負うことです。
御社の会議で、こんな場面に心当たりはありませんか。
- 丁寧な分析資料が出てきて、選択肢が3つ並んで、「どれにしますか?」で終わる
- 外部の支援会社の提案書を読んで、なんとなく「答えが出た」気分になっている
- 議論は深まったのに、最後に「これでいく」と言った人が誰もいない
この記事では、「答え」と「材料」の違いから、答えを出す人が育たない構造、そして明日から使える宣言の型までを整理します。
目次
- ビジネスで言う「答え」とは何か? 解決策の一覧はまだ材料
- 「選択肢を並べる」と「選んで背負う」は何が違うのか
- なぜ答えを出せる人が社内で育たないのか
- 外部の提案書は「答え」にならないのか?
- AIが分析する時代、人間に残る仕事は何か?
- 答えを宣言するには、何を書けばよいか?
- よくある質問
1. ビジネスで言う「答え」とは何か? 解決策の一覧はまだ材料
ビジネスの問題解決は、よく次の順番で語られます。
- 問題を定義する
- 課題を抽出する
- 原因を分析する
- 解決策を並べる
ここまでやると、多くの人が「答えが出た」と感じます。私はそうは考えません。ここまでは、まだ材料です。
ビジネスで言う答えとは、自分が責任者だとして「この解決策を選ぶ。実行しきる」と宣言できる、ひとつのことです。宣言できないなら、答えはまだ出ていません。
| 材料 | 答え | |
|---|---|---|
| 形 | 選択肢の一覧(A・B・C) | 選んだ一つ |
| 主語 | 誰でもよい | 責任者としての「私」 |
| 使う力 | 頭(分析・整理) | 腹(決断・引き受け) |
| 終わり方 | 「どれにしますか?」 | 「これでいく」 |
分析は頭の仕事です。答えは腹の仕事です。二つはつながっていますが、別の仕事です。
2. 「選択肢を並べる」と「選んで背負う」は何が違うのか
偉そうに書いていますが、私も昔は分析で満足していました。
綺麗な資料を作り、選択肢を3つ並べて、上に「どれにしますか?」と投げる。決めるのは自分ではない、と思っていました。資料の完成度が上がるほど、仕事をした実感も増えていきました。
考えが変わったのは、ある全社プロジェクトで稟議の書き手に立たされたときです。
稟議書には「どれにしますか?」とは書けません。「この案で進めます。理由はこうです。リスクはこれで、こう手当てします」と書く必要があります。書いたら、その案が失敗したときに説明するのは自分です。
そのとき、はじめて分かりました。選択肢を並べる作業と、ひとつを選んで背負う作業は、まったく別の仕事だと。
並べる作業は、情報が揃えば誰でも前に進められます。選んで背負う作業は、情報が揃っていても、覚悟がなければ一歩も進みません。
3. なぜ答えを出せる人が社内で育たないのか
「うちには答えを出せる人材がいない」という声をよく聞きます。私は、原因は人材の能力ではなく構造にあると考えています。
| 選び方 | うまくいったとき | 失敗したとき |
|---|---|---|
| 社内の誰かが旗を立てて宣言する | 本人の手柄になりにくい | 「お前が悪い」と個人の責任になる |
| 外部に構想を作ってもらう | 社内の手柄として報告できる | 「外部の見立てが悪かった」で済む |
会社員として合理的に考えると、後者を選ぶのは自然です。宣言した人ほど損をする構造の中で、宣言する人が増えるはずがありません。
つまり問題は「答えを出せる人材がいない」ことではなく、「答えを出すと損をする構造」を経営が放置していることです。
全社最適のプロジェクトほど、この構造の影響を強く受けます。部門ごとの利害がぶつかるので、誰かが「これでいく」と引き受けない限り前に進まないからです。この話は、別の記事で詳しく書きました。
4. 外部の提案書は「答え」にならないのか?
外部の支援会社の提案書も、構造は同じです。提案書は材料であって、答えではありません。社内の誰かが「これでいく」と言って、はじめて答えになります。
さらに、提案書を「答え」と取り違えやすい理由がもう一つあります。
支援会社、SIer、プラットフォーマーには、それぞれのビジネスモデルに基づいた利益構造があります。提案書は御社のために書かれているように見えて、相手のメリットに変換された解決策が並んでいることが少なくありません。
だからこそ、提案書を読んで「これでいく」と宣言する前に、その解決策が誰の利益で成り立っているのかを確かめる必要があります。材料の出どころを知らないまま、答えは宣言できません。
ベンダーの提案を見極める視点は、こちらの記事にまとめています。
5. AIが分析する時代、人間に残る仕事は何か?
分析はAIが瞬時にこなします。選択肢もAIが並べます。私自身、調査や資料の叩き台づくりにはAIを日常的に使っています。
ただし、AIは「可能性があります」「検討の余地があります」までしか言いません。言い切らないのは、結果に責任を負えないからです。
そうなると、問題定義から解決策の列挙までの「材料づくり」は、今後ますます速く、安くなります。材料の価値が下がるほど、相対的に価値が上がるのは材料から一つを選び、宣言し、実行しきる仕事です。
「これでいく。うまくいかなかったら、私が引き受ける」
この一文を言える人が、AI時代にいちばん代わりの利かない人材だと考えています。
6. 答えを宣言するには、何を書けばよいか?
宣言は度胸だけの問題ではありません。型があると言いやすくなります。稟議書を書いたときに求められた項目をもとに、型にしておきます。
| 項目 | 書く内容 |
|---|---|
| 選ぶもの | 「A案で進める」と一つに絞る |
| 理由 | なぜA案か。B案・C案を選ばない理由も一行ずつ |
| 捨てるもの | A案を選ぶことで諦めること |
| 撤退ライン | どの状態になったら止める・見直すか |
| 引き受ける人 | 結果を説明する責任者の名前 |
特に「捨てるもの」と「撤退ライン」は、分析資料には出てこない項目です。ここを書けるかどうかが、材料と答えの分かれ目になります。
会議の最後に、この5行を埋めてから解散する。それだけで「議論は深まったのに誰も決めていない」会議は減っていきます。
7. よくある質問
Q1. 分析をしっかりやることは、無駄なのですか。
A. 無駄ではありません。材料の質が低ければ、宣言も的外れになります。ただし、分析の完成度を上げ続けても答えにはなりません。どこかで「材料は十分。ここから選ぶ」と区切る判断が必要です。
Q2. 自分に決裁権がない場合、宣言しても意味がないのでは。
A. 決裁権がなくても「私が責任者ならA案を選びます。理由はこうです」と言うことはできます。選択肢を並べて上に投げるのと、推奨案を一つ示して判断を仰ぐのとでは、上司の意思決定の速さがまったく変わります。
Q3. 外部の支援会社には頼らない方がよいのですか。
A. 材料づくりや実行の手を借りることは有効です。避けたいのは「答えを出す役割」まで外に預けることです。最後に「これでいく」と言う人は、社内に置く必要があります。
Q4. 社内で宣言する人を増やすには、何から始めればよいですか。
A. 宣言した人が損をしない仕組みを経営が用意することです。撤退ラインを事前に合意しておけば、途中で止めても「計画どおりの撤退」として扱えます。失敗の責任を個人に集中させない設計が、宣言のハードルを下げます。
お知らせ
「議論はしているのに、決め切れないまま時間が過ぎている」。そんな全社横断のテーマを抱えている経営者・責任者の方は、お気軽にご相談ください。
材料を並べて終わりにせず、現場に入って一緒に「これでいく」を決めて、実行しきるところまで伴走します。初回のご相談は無料です。
参考文献・出典
- 本記事の内容は、筆者(祖川慎治)の実務経験(全社プロジェクトでの稟議作成、業務改善部署の運営、独立後の支援実務)に基づくものです
- 本記事内の事例は、特定の企業を指すものではなく、複数の現場でよく見られる一般的なパターンを筆者が再構成したものです
- 本記事は数値データを用いていません
この記事を書いた人
祖川 慎治(そがわ・しんじ)
株式会社テイクアステップ 代表取締役/一般社団法人BizOps協会 代表理事。大手メーカー・大手SIerを経て、HR Techベンチャーで全社の業務改善を担うBPR部署の責任者として社内IT戦略の立案から実行・定着化までを担当。5年で300名から1,400名へ成長する組織とIPO実現を業務基盤の面から下支えした。2021年に株式会社テイクアステップを設立し、BizOps・業務プロセス設計の実行支援を行う。ポッドキャスト「どうする?BizOps」配信中。