「それ、あなただからできるんでしょ」と言われました──時間もない、稟議も通らない。それでも外に出るには
株式会社テイクアステップの祖川です。
前回の記事で、「BizOpsは社内に閉じてはいけない。外に情報を取りに行きましょう」という話を書きました。
要点は、次の3行です。
- BizOpsは要望を出す人がそのまま評価者なので、放っておくと「断る動機」が構造的に消える
- 判断の基準を社内の「声の大きさ」に置くと、誰も入力しない項目と誰も見ないレポートだけが積み上がる
- だからベンチマーク先は外に置く。ただし、情報の取り方には気をつける
……で、この話をすると、必ず返ってくる反応があるんです。
- 「言っていることはわかります。でも、それができたら苦労しないんですよ」
- 「祖川さんはコミュ力があるからできるんでしょ」
- 「それ、強者の理論ですよね」
はい。全部、言われました。
そして正直に申し上げると、その指摘は、だいたい正しいです。
今回はそこに正面から答えます。きれいごとで終わらせないために、自分が間違っていた部分も含めて書きます。
なお、今回はこういう方を想定して書いています。
- 一人、あるいは二人でSFA/CRM(営業支援・顧客管理システム)を見ている
- 社内に、利害関係なく相談できる相手がいない
- 外に出た方がいいのはわかっているが、時間も、社内の許可も、立場もない
先に、この記事の結論を3行で書いておきます。
- 必要なのは、踏み出す勇気ではなく、踏み出さなくてよくなる「仕組み」。勇気の要らない出会いの場に身を置くことです
- 外に出るのを阻む本当の壁は「時間・社内の許可・立場」の3つ。「案件一つを30分の相談に切り分ける」「固有名詞と実数を落として話す」「小さな依頼を爆速で片付けて信頼をつくる」で、それぞれ越えられます
- 聞きに行くより、発表する側に回った方が得です。発表は「話す場」ではなく「聞ける関係をつくる場」だからです
目次
- 「コミュ力があるからできるんですよ」と言われました
- だから、「自然に出会える場」をつくりました
- 本当の壁は、コミュ力ではありませんでした
- 聞く側より、実は「話す側」の方が得をします
- 「それ、強者の理論ですよね」と言われました
- おわりに――まず一件、外に聞きに行く
1. 「コミュ力があるからできるんですよ」と言われました
最初の突っ込みは、これでした。
「聞くのはタダ、と思って依頼を投げられること自体が結構なコミュ力なんですよ」
「言っていることには完全に同意です。でも、“言うてできねえよ”という人が多いと思う。それが人間なんですよね」
おっしゃる通りだと思います。
内気か外向的かは、この話には関係ありません。最初の一歩が踏み出せないというのは、性格の問題ではなく、誰にでも起きることです。
初対面の方に「話を聞かせてください」と連絡する。言葉にすれば一行ですが、実際のハードルは相当に高い。
「こんなことを聞いたら、変な人だと思われないだろうか」 「何者だお前、と返されたらどうしよう」
わかります。私だってそう思います。
たとえば、習い事の場を思い浮かべてください。英語教室でも、料理教室でも構いません。たまたま隣の席になった人と話す。これなら、そんなに構えませんよね。
一方で、面識のない人にいきなり「会っていただけませんか」と送るのは、何度やっても緊張します。同じ「会いたい」なのに、こちらだけがやたらと重い。
だから私は、「勇気を出しましょう」とは言いません。それは、できない人にとって何の解決にもならないからです。
必要なのは、踏み出す勇気ではなく、踏み出さなくてよくなる仕組みです。
2. だから、「自然に出会える場」をつくりました
※他社とのネットワーク(横連帯)の価値については、以前の記事その提案、本当に御社のため? ― ベンダーに振り回されない3つの武器の「武器②横連帯」でも触れています。あわせてご覧ください。
私が一般社団法人BizOps協会を立ち上げたのは、ここが理由です。
先ほどの習い事の話を思い出してください。
こちらは英語を学びに来ているわけです。知的好奇心を満たそうと思って行った先に、同じ知的好奇心を持っている人がいた。
だから「はじめまして」が成立する。
BizOps協会も、まったく同じ設計です。BizOpsに関心のある人と、BizOpsに関心のある人が、たまたま同じ場にいて、たまたま話をした。名刺交換をすることが、まったく不自然じゃない場。
この「たまたま」を、意図的につくっています。
一度会ってしまえば、続けるかどうかは自分次第です。実際、1年半から2年ほど運営してきて、何度も顔を合わせた方々とは、自然に仲良くなっていきました。
そして、いちばん大きい価値はこれです。
自社に戻って、仕事をする。困ったことが起きる。そのとき、聞ける相手が社内以外にいる。
「あの場合、どうされてましたか?」とDMで聞いてもいい。直接聞きづらければ、オンラインの場に質問を投げてもいい。
この「聞ける場所が自社の外にある」という状態の価値は、もっと見直されていいと思っています。
なぜなら、一人BizOpsにとって、社内には相談相手がいないからです。上司はシステムに詳しくない。現場は当事者だから中立に見てくれない。
構造上、社内には「利害のない相談相手」が存在しないんですよ。

3. 本当の壁は、コミュ力ではありませんでした
……と、ここまで書いてきて、自分でも思ったことがあります。
「強者の理論だ」と言われたとき、その”強者”はコミュ力の話だけではありません。
以前の私は、外に出ない人のことを、こう整理していました。
「忙しいので」という理由で見送る人がいる。それはその人が、外に価値がないと判断したということだ。本人の優先順位として正しいなら、それでいい――
今は、そう思っていません。
手を挙げなかったのは、外に価値がないと判断したからではありません。私が「行くと何が得られるのか」を、具体的に示せていなかったからです。
**「勉強になるよ」では、誰も動きません。**これは、私の失敗です。
しかも壁は、時間だけではありませんでした。実務担当者の方と話していて、はっきり見えてきた壁が3つあります。
壁①:時間がない
要望が週に何件も飛んできて、リリース前は遅くまで残っている。そういう状態の方に「勉強会に1日使いましょう」と言っても、無理です。
だから、切り分け方を変えました。
「1日空けて勉強会へ」ではなく、「今抱えている案件のうち、一つだけ、外の人に聞いてから決めてみませんか」
これなら30分です。
そして、**30分の相談で、2週間の手戻りが消えることがあります。**なぜなら、手戻りの大半は「そもそも作るべきではなかったものを作った」ことから生まれるからです。
忙しい人ほど、外に出る価値が高い。目の前の要望を捌くことでしか評価されていない人こそ、判断の基準を外に持たないと、一生受け身から抜けられません。
壁②:社内の許可が下りない
「ライバル企業に話を聞きに行け」と前回書きました。これ、実務担当者の方からすると、心理的ハードルより先に制度的ハードルが来ます。
「同業他社の担当者と個別に会って、自社の業務プロセスを話す」
情報管理規程に引っかかる会社は、珍しくありません。
現実的な進め方は、こうです。
- 自社の固有名詞と実数は出さない。「300名規模のBtoB企業で」という粒度で十分に話は通じます
- **業種は近いが、商流が違う会社を選ぶ。**直接競合を避ければ、社内の説明は一気に楽になります
- 上司には「ベンチマーク調査」として通す。「勉強してきます」ではなく「A社の運用を確認して、今の設計判断の材料にします」と目的を書く
**「聞きに行きたい」ではなく「この判断のために確認してくる」。**言い方を変えるだけで、通り方が変わります。
壁③:営業部長の隣に座る資格がない
前回の記事(前編)で、「営業部長の隣に座って、一緒に数字を眺めた」と書きました。
これを読んで、「いや、自分は営業部長からすると”システムの人”なので、隣に座る口実がない」と思われた方がいるはずです。その通りだと思います。
座る資格は、つくるものです。
前回書いた「まず改善、そのあと改革」という順番は、まさにこのためにあります。
営業部長が今いちばん困っている小さい依頼を、一つでいいので**爆速で片付ける。**リスト作成でも、レポートの手直しでも構いません。
**「この人に頼むと早い」**という認識が一度できると、隣に座っても不自然ではなくなります。
制度を変える話は、そのあとです。順番を逆にすると、正論を持った部外者として扱われて終わります。

4. 聞く側より、実は「話す側」の方が得をします
もう一つ、これは断言できます。
外に出るなら、聞きに行くだけでなく、発表する側に回った方がいいです。
「いやいや、発表なんて、そんな話せることないですよ」
そう思われるかもしれません。でも、順番が逆なんです。
発表した人には、逆に周りが聞いてくれます。
「この部分、どうされたんですか?」 「うちも同じところで詰まってるんですけど、どう乗り越えました?」
そう聞かれたときに、自分が困ったことを話せる。そして、その流れでこちらからも聞けるんです。
「そちらはどうされてますか?」と。
こちらから先に情報を提供しているから、心理的にも聞きやすい。つまり、**発表は「話す場」ではなく、「聞ける関係をつくる場」**なんですよ。
なお、ここでも社内の許可の話は同じです。社名を伏せて「とある300名規模のBtoB企業で」と話せば、たいていの内容は共有できます。具体的な数字と固有名詞さえ落とせば、課題の構造は共有できるんです。
外に出た人は、何を持ち帰ってきたか
以前いた組織で、「外に出ていこう」「聞きに行くけど、行きたい人いる?」と声をかけ続けていた時期があります。
手を挙げる人と、挙げない人がいました。当時の私の声のかけ方が悪かったのは、先ほど書いた通りです。
ただ、手を挙げた人に起きた変化は、はっきりしていました。
一つは、会社の看板ではなく、その人個人に相談が来るようになったことです。「◯◯株式会社の方」ではなく、「◯◯さんが携わった会社はすごい」と言われる状態ですね。
BizOpsは、営業・マーケティング・コーポレート・情報システムを横断する仕事です。プロのジェネラリストとしての経験値が、個人に溜まる職種なんですよ。
そしてもう一つ、これは経営の目線で見て重要なことです。
外に出た人が持ち帰った他社の事例が、社内の意思決定を変えました。
「他社もやっているからやりましょう」ではありません。「同じ規模の会社が同じ設計で失敗しているので、うちはここを変えましょう」と、根拠を持って止められるようになったんです。
外に出るのは、個人のキャリアのためだけではありません。判断材料を社外から調達してくること自体が、会社に対する貢献です。

5. 「それ、強者の理論ですよね」と言われました
ここからが、いちばん痛いところを突かれた話です。
「多くのBizOpsの人は、考え方も、視野の広げ方も教えてもらえないまま、一人で戦っているわけじゃないですか」
「それを”自分の頭で考えなさい”と言うのは、ちょっと酷な気がします」
「それ、強者の理論ですよ」
はい。その指摘は、正しいです。否定しません。
一人BizOpsに、フィードバックをくれる上司はいません
上司と部下の関係なら、機会を提供して、食らいついてこなかったときに「あの時チャンスだったのに、なんで動かなかったの?」とフィードバックができます。
でも、すべての会社に、その進み方を示してくれる人がいるわけじゃない。
一人BizOps、二人BizOps。そんな組織では、育てる暇すらないかもしれません。完全に手探りです。
そもそも「自分が今、正しい方向に進んでいるのか」を振り返る機会すら、あまりにも少ない。
「祖川さんの経歴だからできるんでしょ」
私が過去に「未経験者を育てています」という趣旨の発信をしたときも、まさにこう言われました。
「祖川さんの経歴だからできるんでしょ」「あなたがいるからできるんでしょ」
私はSIerからクラウドの領域に移り、Salesforceに関わり、事業会社の営業企画も経験しています。その経歴が効いている部分は、確実にあります。
ただ、その経歴があってなお、外しています。
前回書いた通り、私は現場の予実がズレているのを見て、最初に「現場の精度が低い」と考えました。実際には、自分が置いた指標の粒度がおかしかった。両方の目線を持っているつもりで、自分の設計を疑えなかったわけです。
育成の話も同じで、私の事例はn=1です。「これ、言っていいのかな」と迷うことも普通にあります。
さらに正直に言えば、私は恵まれていました。ズケズケ言っても、それを受け止めてくれる社内のメンバーがいた。むかついて人事に相談に行って、そのままフェードアウト……ということが起きなかった。
たまたま噛み合ったんです。
そして、これがこの記事の限界でもあります。私は、噛み合わなかった側の話を持っていません。
だから、「BizOpsの育成をモデル化しました」なんて、私はまだ言えません。
それでも、これだけは言わせてください
ここまで手の内をさらした上で、それでも言いたいことがあります。
「あなただからできるんですよ」で会話を止めてしまうと、そこで思考が停止します。
ただ、「自分にできたから、あなたにもできる」とは言いません。それは根拠になっていないからです。代わりに言えることは、一つだけです。
私が外で会ってきた人の大半は、私よりずっと普通の人でした。
有名企業の有名人ではありません。一人情シスの方、兼務でSalesforceを見ている方、名刺に部署名すらない方。
その方々が外に出られたのは、才能ではなく、「自分が今、何に困っているか」を一行で言えるようにしていたからです。
これは準備です。準備なら、明日からできます。
なぜ、私の話は「きれいごと」に聞こえるのか
最後に、この記事の弱点を自分で書いておきます。
**BizOpsは、すごく抽象的な課題を取り扱う仕事です。**だからこそ、具体論はOJTでしか磨かれません。
「話し方がまとまっていない。最初に結論から言わないと伝わらないぞ」 「その要望、背景を聞いたか? 原因を深掘ると何がある?」
こういう指摘は、誰かが横で見ていないと出てきません。そして、その”横にいる誰か”がいない環境の方が、圧倒的に多い。
抽象的な話は、総論としては大きく賛成されます。でも、具体になった瞬間に反対される。総論賛成・具体反対、というやつですね。
私の話も、抽象度を上げれば上げるほど、きれいごとになります。
だから私は、なるべく具体的な失敗を書くようにしています。前回書いた、自分の指標設計を疑えなかった話のように。
それでも、横に並べて他社の話を聞いてみると、**同じところで、みんなつまずいているんです。**つまずかなくていいものが、本当にたくさんある。
外に出て話を聞くというのは、他社が払った授業料を、自社の意思決定に使わせてもらうということなんです。
6. おわりに――まず一件、外に聞きに行く
2回にわたって、「BizOpsは社内に閉じてはいけない」という話を書いてきました。
前編でお伝えしたのは、外に出る理由と、情報の取り方。今回お伝えしたのは、それを阻む3つの壁と、その越え方です。
改めて、私からのお願いは一つだけです。
外に、一つでいいので話を聞きに行ってください。
1日空ける必要はありません。今抱えている案件を一つ選んで、それについて聞く。十分です。
事件は会議室で起きてるんじゃない。現場で起きてるんです。そしてその現場は、隣の会社にもあります。
次回予告
今回、「たまたま噛み合った」と何度か書きました。ただ、噛み合わせるための努力も、それなりにしてきたつもりです。
次回は、その努力の中身を言語化してみたいと思います。育成、目標設定、評価、採用。BizOpsという領域で、ここをどう考えてきたのか。
モデル化は難しい。でも、参考になるものは必ずあるはずです。「ケースバイケースです」で終わらせるつもりはありません。
よくある質問
Q1. 時間がない中で、どうやって社外に情報を取りに行けばいいですか?
A. 1日空ける必要はありません。今抱えている案件を一つだけ選び、「外の人に30分聞いてから決める」に切り分けてください。手戻りの大半は「そもそも作るべきではなかったものを作った」ことから生まれるため、30分の相談で2週間の手戻りが消えることがあります。
Q2. 同業他社へのヒアリングは、情報管理規程など社内の許可に引っかかりませんか?
A. 3つの工夫で現実的に進められます。①自社の固有名詞と実数を出さず「300名規模のBtoB企業」という粒度で話す、②直接競合ではなく、業種は近いが商流の違う会社を選ぶ、③上司には「勉強」ではなく「ベンチマーク調査」として目的を明記して通す、の3点です。
Q3. 話せる実績がなくても、勉強会などで発表する側に回るべきですか?
A. はい。発表は「話す場」ではなく「聞ける関係をつくる場」です。先に情報を提供した人には周りから質問が集まり、その流れでこちらからも聞けるようになります。社名を伏せて数字と固有名詞を落とせば、課題の構造はたいてい共有できます。
Q4. 一人BizOpsで、社内に相談相手がいない場合はどうすればいいですか?
A. 「利害のない相談相手」を社外に持つのが解決策です。一人BizOpsの場合、上司はシステムに詳しくなく、現場は当事者のため、構造上、社内に中立な相談相手は存在しません。BizOpsに関心のある人と自然に出会える社外コミュニティ(一般社団法人BizOps協会など)を活用してください。
お知らせ
「外の事例を持ち込んで判断したいが、社内にその材料がない」
そう感じているご担当者の方からのご相談を歓迎しています。実際、最初のご相談は現場のお一人から、というケースがほとんどです。上申の材料づくりからご一緒します。
外の知見を、御社の言葉に翻訳して持ち込むところからが私たちの仕事です。
参考文献・出典
- 本記事に登場する数値(30分の相談で2週間の手戻りが消える事例、「300名規模のBtoB企業」という粒度の例示、BizOps協会の運営期間1年半〜2年など)は、いずれも筆者(祖川慎治)自身の実務経験に基づく記述です。第三者調査による統計値ではありません
- 「外に出るのを阻む3つの壁(時間・社内の許可・立場)」の整理、発表側に回ることの効用に関する考察は、筆者の実務経験に基づく整理です
- 関連記事:その提案、本当に御社のため? ― ベンダーに振り回されない3つの武器
- 前編:誰も入力しない項目と、誰も見ないレポートだけが増えていく ── BizOpsが社内に閉じることのデメリット
この記事を書いた人
祖川 慎治(そがわ・しんじ)
株式会社テイクアステップ 代表取締役/一般社団法人BizOps協会 代表理事。大手メーカー・大手SIerを経て、HR Techベンチャーで全社の業務改善を担うBPR部署の責任者として社内IT戦略の立案から実行・定着化までを担当。5年で300名から1,400名へ成長する組織とIPO実現を業務基盤の面から下支えした。2021年に株式会社テイクアステップを設立し、BizOps・業務プロセス設計の実行支援を行う。ポッドキャスト「どうする?BizOps」配信中。